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このブログでは、残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。
4 しかしながら、被控訴人らは、本件協定等による賃金には、名目上は定額の超勤深夜手当(残業代)を含むこととされているが、控訴人の賃金体系は、水揚額に対する歩合制であって、実質的に時間外・深夜割増賃金(残業代)を含むものとはいえないと主張するところ、なるほど、名目的に定額の割増賃金(残業代)を固定給に含ませる形の賃金体系がとられているにすぎない場合に,そのことのみをもって、前記のような時間外・深夜割増賃金(残業代)の計算が可能であるとし、その部分について使用者が割増賃金(残業代)の支払を免れるとすれば、労働基準法三七条の趣旨を没却することとなる。したがって、右のような超勤深夜手当(残業代)に係る定めは、実質的にも同条の時間外・深夜割増賃金(残業代)を含める趣旨で合意されたことを要するというべきである。 そこで、以下、この点につき検討する。 (一)控訴人は、前記第二、二1のとおり、本件協定等は、タクシー業務の特殊性を考慮し、労使が交渉を重ねた上で、時間外・深夜割増賃金(残業代)を含める旨の合意をしたものであると主張するところ、(証拠・人証略)によれば、控訴人と県自交労組は、交渉の結果、昭和六〇年一二月二一日、賃金体系等につき、本件協定書と同内容の合意にほぼ達し、同日付けで議事録を作成し、これを基に、昭和六一年四月一〇日、本件協定を締結したものであることが認められる。 しかしながら、前記第二、一2(二)のとおり、本件協定における基本給に乗務給、皆精勤手当、超勤深夜手当(残業代)を加算した総支給額は、月間の水揚額が責任水揚額三二万円に等しいときには、水揚額に賃金比率四八パーセントを乗じた金額に等しく、また、水揚額が三二万円を超えた場合の歩合加給をした支給総額も、その水揚額に前記賃金比率表の賃金比率を乗じた金額に等しいものであるところ、昭和六三年三月一九日ころには、二交替勤務者について賃金比率が変更されるとともに、その責任水揚額、基本給、超勤深夜手当(残業代)が変更されたが(その他の乗務給等は変更されていない)、やはり、水揚額が責任水揚額に等しい場合及びこれを超える場合の総支給額は、水揚額に賃金比率を乗じた額に等しくなっている。 そして、水揚額が責任水揚額に達した場合には、右のとおりであるが、水揚額が責任水揚額に達しない場合には、本件協定においては、若干の特別措置が設けられてはいるものの(第五条)、その支給額は基本的に水揚額に前記の賃金比率表の1又は2欄の水揚額を乗じた金額であり、この場合には基本給等の概念を入れる余地のない歩合制であると考えられる。 したがって、控訴人の主張を前提とすると、本件協定等の賃金体系は、水揚額が責任水揚額に達しない場合には二段階の賃金比率による歩合給であり、それが責任水揚額に達した場合には、二段階の賃金比率を考慮した歩合加給のある固定給ということとなるが、前記のように、後者の場合にも結局総支給額は水揚額に賃金比率を乗じた額に等しいことからすれば、結局、その賃金体系は四段階の歩合制とみる方が自然である。 なお、本件協定等の賃金体系は、右のとおり、水揚額が責任水揚額に達しない場合には、支給額に超勤深夜手当(残業代)が含まれないと考えられ(含まれるとすれば、その金額や計算根拠は不明としかいいようがない。)、証人津川優は含まれない旨の証言をするが、昭和六二年七月以降控訴人の代表取締役である控訴人代表者は、その場合にも支給額に超勤深夜手当(残業代)が含まれていると思う、基本給の欄も超勤深夜手当(残業代)の額も複雑になるが計算できると思うなどと供述しており、このような供述自体、控訴人の賃金体系全体に実質的な深夜割増賃金(残業代)が含まれているということに疑問を抱かせるといわざるを得ない。 (二)また、本件協定等における超勤深夜手当(残業代)は、時間外・深夜労働(残業)が増加しても変動のない定額であって、労働者側がそのような合意をするについてはその見込み時間数等その算定根拠につき十分に吟味され議論されるものと考えられるが、右超勤深夜手当(残業代)の額がいかなる基準、交渉によって定められたものであるかは本件全証拠をもってしても明らかではない。 前記(一)に述べたところからすれば、控訴人の賃金体系は、責任水揚額に応じた実質歩合制として設定されたのではないかとの疑問を抱かざるを得ないところ、(証拠略)によれば、平成元年一〇月一日以降の徳島県の最低賃金が一時間当たり四五三円であり、これに月間の所定労働時間二〇八時間(本件協定書における固定給は、所定労働日数二六日、所定労働時間二〇八時間を勤務した場合を基礎とする旨記載されている。)を乗じた金額が九万四二二四円であるから、本件協定成立当時の最低賃金に若干の上乗せをした金額に所定労働時間二〇八時間を乗じて得られたのが基本給八万五〇〇〇円であり、右基本給及び乗務手当・皆精勤手当を固定給から控除した残額が超勤深夜手当(残業代)として記載されているにすぎないのではないかとも考えられれないではない。 (三)また、本件協定以前にも、控訴人は、昭和五六年七月に県自交労組と、同年八月に全国一般労組と、それぞれ労働協約を締結し(〈証拠略〉)、乗務員の賃金につき、基本給六万七六〇〇円、乗務手当一万三〇〇〇円、皆精勤手当五〇〇〇円、超深(ママ)手当額四万八四〇〇円とし、その合計金額一三万四〇〇〇円を固定給とするが、一か月の水揚額が三〇万円未満のときは右固定給を適用せずに水揚額の三〇パーセントを支給する、三〇万円以上のときは三〇万円を超える部分につきその四七パーセントを歩合給として支給することなどが定められているところ、(証拠略)によれば、基本給六万七六〇〇円の後に(325×208)、乗務手当一万三〇〇〇円の後に(500×26)という書き込みがあることからして、月間の法定内労働時間二〇八時間に一時間当たりの賃金三二五円を、月間の所定労働日数二六日に一日当たり五〇〇円をそれぞれ乗じて算出されたものと推測されるが、超深(ママ)手当四万八四〇〇円については、労使間でいかなる基準に基づいて算出されたかは明らかではない(もっとも、右協定をめぐる交渉の中で、組合側からも超勤深夜手当(残業代)額の提案がなされ、その提案につき計算式が示されたことが認められるが(〈証拠略〉)、その提案と最終的に定められた超勤深夜手当(残業代)四万八四〇〇円の関係や、同金額の算定根拠はやはり判然としない。)。 そして、この際の調整加算金等を加算した総支給額は、必ずしも水揚額に一定率を乗じたものでない点で、本件協定等によるものとやや異なるものの、控訴人は、交渉の過程において、企業存続のため、行政指導事項を理解しながらも、累進歩合制をとらざるを得ないことを理解して欲しいなどと述べていたことが認められること(〈証拠略〉)を考慮すると、右超深(ママ)手当の額は、固定給の適用があるとされる最低水揚額の三〇万円に四五パーセントを乗じて得られた一三万五〇〇〇円から、月間の水揚額が三〇万円以上三一万円未満の場合に調整加算される一〇〇〇円を差し引いた金額が固定給一三万四〇〇〇円であり、ここから前記方法で算出された基本給・乗務手当等を控除した金額にすぎないのではないかとの疑いがやはり払拭できない。 証人津川優は、右のような算定方法を否定し、また、本件協定についても、交渉の過程で、基本給、業務給、皆精勤手当、超勤深夜手当(残業代)が合意され、それを合計したものが、結果として水揚額に賃金比率を乗じたものに一致したものである旨の証言するが、前記のとおり、本件協定の基本給、超勤深夜手当(残業代)がその後改訂された際にも、同様に、水揚額に賃金比率を乗じた額に一致していることからすれば、それが偶然に一致したものとは考えがたく、右証言はたやすく採用できない。 (四)被控訴人らが受け取った賃金明細書をみると、業務手当、皆精勤手当、深夜割増手当(残業代)等の明細額を記載したものもあるものの(〈証拠略〉)、水揚額と歩合割増(歩合加給)と合計額のみ記載され、超勤深夜手当(残業代)等の内訳の明細の記載がなかったことも多かったと認められる上(〈証拠・人証略〉)、被控訴人山崎佳克も、昭和五六年の協定につき、基本給・超勤深夜手当(残業代)等が固定給として記載されていたことは知っていたが、古い運転手から、オール歩合給の賃金体系だと労働基準監督署から指導を受けるから、形だけは基本給、超勤深夜手当(残業代)等を固定給として書いているものだと聞き、単に割り振った金額が形式的に記載されているにすぎないと理解していたと供述しており、賃金明細書を作成する控訴人もそれを受領する被控訴人らも、超勤深夜手当(残業代)等の項目や金額を重視していなかったことがうかがわれる。 (五)本件協定書等における超勤深夜手当(残業代)が労働基準法上の時間外・深夜割増手当(残業代)であることを前提にした場合の、控訴人の主張する時間外・深夜割増賃金(残業代)の過不足額は、別紙超過勤務手当(残業代)計算表(1)又は(2)であるところ、これを前提にすると、本件協定等による超勤深夜手当(残業代)が、相当額超過支払であった月が多くあることになるが、経営の窮状を訴える控訴人が、相当額の過払いが出るような時間外・深夜割増手当(残業代)を合意したというのは不自然であるといわざるを得ない。 (六)控訴人は、平成元年、本件協定の欠勤控除の規定につき、控訴人の賃金体系は実質歩合制であるので欠勤控除はできないとの労働基準監督署の是正勧告を受け、これに特段の抵抗をすることもなく、基準賃金(基本給、役職手当、歩合給、二交替勤務手当)と基準外賃金(時間外手当(残業代)、深夜手当(残業代))に区分した賃金体系の改訂案を作成し、組合に提示したことが認められ(〈証拠・人証略〉)、また、平成四年九月二九日、全国一般労組に対し、時間外・深夜手当(残業代)につき、徳島労働基準監督署から是正勧告を受けた一人当たりの六か月平均である一律一〇万八〇〇〇円の解決金の提示をしたことが認められる(〈証拠略〉 )。 以上に述べたように、本件協定等の賃金体系は、その内容自体、形式的な定めとは異なり実質歩合制であると考える方が自然である上、定められた超勤深夜手当(残業代)は定額であるが、その算定根拠は明らかではなく、また、被控訴人らに交付された賃金明細書も歩合制であることを疑わせるものがあり、労働基準監督署の勧告等に対する控訴人の対応も控訴人自身が実質歩合制であることを認めていたとも考えられるのであって、これらを総合すると、本件協定等における超勤深夜手当(残業代)が、水揚額に賃金比率を乗じた総支給額の中の多目的な内訳であるという以上に、労働基準法三七条の定める時間外・深夜割増賃金(残業代)の実質を有するものとはいいがたく、本件協定等において、時間外・深夜割増賃金(残業代)を固定給に含める旨の実質的合意があったと認めることはできない。 県自交労組の組合員として本件協定の締結に関与したという川西英器の陳述書(〈証拠略〉)及び同組合員であった青木進の陳述書(〈証拠略〉)には、控訴人の主張に沿う記載があるが、これまで述べたところに照らし採用できない。 企業の方で、残業代請求についてご不明な点があれば、御社の顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、会社都合の不当な解雇、交通事故の示談交渉や慰謝料交渉、相続や遺言の問題、原状回復(敷金返還)や多重債務の返済、家族の逮捕などの刑事弁護事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。 PR |
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